「だんご汁と足湯」
大洲市 池田 啓子

 鉄輪温泉(かんなわ)。まさ食堂のだんご汁とお向かいの足湯にはまって早一ヶ月が過ぎた。戦時中食べていた、だんご汁の原点すいとんは、白菜とだんご だけのシンプルなものだったが当時は御馳走だった。今は人参、大根、里芋など野菜がたっぷり、また(やせうま)と呼ばれるだんごは、きしめん風でつるりと喉越しがよく、味噌味のスープに当地の“かぼす”を絞ると一段と風味が増す。戦前生まれの私たち世代には懐かしい味だ。
 持病の治療で別府に通っているが四国からの日帰りなので二時間余りが自由時間。ひょうたん温泉、かっぱ温泉などアチコチと漂流の末、ようやく鉄輪温泉に辿り着いた。まさ食堂では料理のみならず卵雛や達磨大師などが描かれた大将手作の瓢箪も客を迎えてくれる。それに、おかみさんの客への声かけが、実に自然体で間合いが絶妙。現代のファストフード店では得られない和みの空間がある。
 昼食の後、お向かいの足湯を愉しんでいるといろんな人がやってくる。足が温もると気分もポカポカ「何処から見えましたか」と会話が始まる。先日はトヨタ自動車工場に勤める愛知県からの青年に出会った。三十代半ばの彼は品質向上研修会に参加するため別府を訪れていた。奥さんとはフィリピンバーで知り合い、現在は奥さんに似た可愛い娘にも恵まれ、自分の両親を実の親のように慕ってくれると嬉しそうだ。旅先でこのような私的な会話を、若者と交わすことは珍しい。
 天下のNHKもデジタル放送に切り替わり画像は一段と鮮明になった。筆者もパソコンのメールチエックから一日が始まる。利便性ゆえにもう手放すことは出来ない。一方、受験生によるネット上でのカンニング事件も発生した。いつの間にか包囲されている情報社会の中で日々溜まっていく“凝りのようなもの”が鉄輪温泉を訪れるたびに溶けていく。そんなアナログな日常がここにはある。