「鉄輪焼酎と鉄輪」
みちえ

 鉄輪焼酎のラベルを書かせていただいてから三十年くらい経ちます。
 私は下戸なので、もっぱら人に贈るために鉄輪焼酎を買っていますが、旨いどころか最高やねと言った人もいます。鉄輪の土産には焼酎もあるよ、という具合に鉄輪焼酎の味を知る人がもっともっと増えて欲しいいものです。鉄輪は、わたしにとって思い出のいっぱいある町です。季節毎に姿を変える美しい山々にとっても似合う湯けむり、夏はゆかた、冬は丹前姿の湯治客が下駄を鳴らして行き交う鉄輪銀座。一人暮らしを始めた元は旅館だった西海アパートでの日々はほんとうにしあわせで一生の住処にしようと思ったほどでした。細く急な坂道を下って赤レンガ造りの熱の湯で朝起きて一風呂、仕事から帰って一風呂、寝る前に一風呂、とまさに温泉三昧の贅沢な毎日でした。そして坂道には顔馴染みの猫がいてくれました。鉄輪に限ったことではまく、のら猫生き辛くなっているようで、なんとももむげないです。人が人以外の生き物と共に生きるためにどうしたらいいか智恵を出し合う所では豊かな心が育ちます。豊かな心を持つ人は自然からの贈り物をむやみに台無しにする事はないしむやみに殺さないと思うのです。温泉も自然からのおくりものです。
 その温もりをのら猫とも植物とも分け合ってのどかな時間が流れる町は訪れる人にも 形のない心地良さを残すことでしょう。
 そしてまた鉄輪に来たくなるんじゃないでしょうか。
 そして上戸の方は鉄輪焼酎をどうぞ。