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平成26年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成26年夏 優秀三句

甲斐 梶朗 選


百すじのゆけむりの空鳥渡る  大分市   富尾 和恵

(評)百筋は優に越える湯けむり。その上には澄みきった空がある。秋になると、北方より鳥が渡って来る。湯煙が好きで忘れずにやって来る。その鳥たちを見詰める、作者の目が美しく輝いている。

浴衣着の異国ことばやみゆき坂  北九州市小倉北区   大塚 邦子

(評)別府は、年々国際色豊かになってゆく。外人もここでは、浴衣姿となり散策する。みゆき坂よりいでゆ坂へと、湯けむりと共に、異国言葉が流れて行く。

湯けむりを抜けてひとこゑ時鳥  別府市   古賀 宣道

(評)ほととぎすの鳴き声は鋭い。朦朦たる湯けむりも何のその、突き抜けて来る。「ひとこえ」にいっそうの鋭さが込められている。次のもう「ひとこえ」をじっと待つ。
【四季のことば】 選者 甲斐 梶朗
 今年の夏は、忘れ得ぬ哀しい、淋しい夏となってしまった。鉄輪俳句筒・湯けむり散歩を、初回より一季も欠かす事なく、選をしていただいた、倉田紘文先生が、ご逝去された。万緑の輝きも、湯けむりの噴く様も、何と淋しい事か。ただ先生のご冥福を、お祈りばかりで、この夏は過ぎ去って行く。
 

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成26年春 優秀三句

甲斐 梶朗 選


春きざす光の中へ湯の煙  由布市   松原 幹夫

(評)自然界が動き出す春の訪れ。その光の中で噴き上がるゆ煙、正に躍動する湯煙である。湯煙万歳。

露天風呂一夜見ぬ間の花筏  別府市   楢崎 好江

(評)花筏の浮かぶ、朝の露天風呂。花筏をそっと掻き分けながら、身を沈めれば、今日一日はきっと素敵な時間を過ごさせるでしょう。一夜にして、組まれた自然のアート最高。

湯けむりに巻き込まれゆく桜かな  大分市   牧  一男

(評)勢い良く噴き上がる湯煙。散り始めた桜の花片が、花吹雪となって。湯煙と共に舞い上がる。自然の力、自然の美が、句に込められている。散りかけた花片が、湯煙によって、再び命を吹き返す。
【四季のことば】 選者 甲斐 梶朗
 今回も沢山の俳句が寄せられました。湯けむり散歩ですから、湯けむりの句が多いのは当然です。春はやはり桜です。桜と湯けむりは、良く似合います。でもこの湯煙散歩は、もう終わりです。二十一世紀に残したい日本の風景、全国第二位の、湯けむりを俳句にして残そうとした、湯けむり散歩も、第八十八集で終わると報ぜられました。残念です。でも湯けむりが噴きつづける限り、桜が咲きつづける限り、日本の四季が廻りつづける限り、句碑にならなくても、皆んなで、湯けむりを愛し、四季を楽しみながら、俳句を作ってゆきたいと思います。
 

平成25年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成25年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


大寒の蒼天めざし湯のけむり  札幌市     土井 厚二

(評)蒼天に対し、湯煙の白さが際立つ。別府の湯煙を斯くも美しく、格調高き句にしていただき脱帽です。

湯けむりや寒冷前線迫りくる  中津市     大江 正人

(評)寒冷前線を迎え撃つ湯煙。湯煙の迫力充分、この湯煙は大切にしてゆかねばと思います。

冬晴れや展望台で待ち合はす  別府市     佐々木多恵子

(評)この展望台は湯けむり展望台でしょう。冬晴れの湯煙は素晴らしい。湯煙に囃し立てられながらのデートは最高。生涯忘れ得ぬデートとなるでしょう。
【四季のことば】 選者 倉田 紘文
 鉄輪愛酎会で主催してきました「鉄輪俳句筒・湯けむり散歩」を、平成二十六年夏句集で終了いたします。平成四年八月から二十二年間楽しく夢のある事業ができましたのも、多くの俳句愛好者の方々や、句集に原稿を頂いた市民の皆様のご協力のたまものです。特に選者倉田紘文先生あっての事業であったと先生には厚く感謝いたします。なお鉄輪愛酎会と「天領焼酎・鉄輪」は、現在の通り継続いたしますので、今まで通りのご愛顧をお願い申しあげます。
 倉田紘文先生の体調で、今回から選者を甲斐梶朗先生(蕗同人・蕗別府句会々長)にお願いいたすようになりました。 編集者も本年二月から体調をくずし、「鉄輪俳句筒・湯けむり散歩」の継続が出来ないことが残念でなりません。再度、夢のある鉄輪の企画が出来るよう、体調の回復に努めて参る所存です。
(注)残る3カ月間と年内の予定です。ご協力下さい。
 一、 平成二十六年春第八十七句集(2月〜4月)
 二、 平成二十六年夏第八十八句集(5月〜7月)まで
 三、 第二十二回句集の「鉄輪ごよみ」平成27年号の作成
 四、 第二十二回句碑までは完成いたします。
 五、 句集49号〜88号をまとめた「鉄輪俳句集第2巻」も別府市の企画する泉都まちづくり支援事業を受けて作成する計画です。
 

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成25年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


ながたびでつかれた足を月の湯に  沖縄県伊平屋村  上江州 清龍(12歳)

(評)沖縄から別府温泉へ。本当に「ながたび」だったね。大空の月の明るさの中での足湯は気持ちいいね。

茜ぞら湯煙りゆかたさわやかに  大分市  松 本 じつお

(評)黄みを帯びた赤色をひろげる茜空。絵の中の一人の人物として浴衣姿の人が颯爽と現れた。湯けむり散歩。

秋日和地獄巡りにさそはれて  ブラジル・サンパウロ市  林 とみ代

(評)天も高く、湯けむりも高い秋日和の美しさ。その旅の一日を鉄輪の地獄巡り。ブラジルの春から別府の秋を満喫。
【四季のことば】 選者 倉田 紘文
 秋は行楽のシーズン。さあ自然を楽しみ、そして心に浮かぶ言葉を楽しみましょう。
〈ゆ〉 夢の中でも句と遊ぶ
〈け〉 今日の命が今日の一句に
〈む〉 無駄な言葉は捨てましょう
〈り〉 リズムに乗って心地よく
 ゆけむりを眺めながら一句どうぞ!
 遊びごころも大切です。
 

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成25年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


五月晴れ家族五人で足湯かな  高知市  坂 本 竜(十歳)

(評)「五月晴れ」「家族五人」「足湯」・・・・ゴーゴー(行け!行け!)、元気な足で・・・・。高知の竜君だから、坂本竜馬と重なるね。

夕立を背中に聞いて足湯かな  別府市  西川 加依子

(評)夕立の音の涼しさ。そして足湯のほの温かさ。「背中に聞いて」に現実を離れた自由さと楽しさがある。〈いい湯だな、ハハン・・〉

田を植えて羅漢の顔や湯治宿  兵庫県三田市  北野 哲男

(評)田植えは農の一大事業。その大役を終えての「羅漢の顔」。悟りを得て人々に尊敬を受ける資格を備えた羅漢様。湯治宿が最適の場面。(ハタラカン人には与えられない)。
【四季のことば】 選者 倉田 紘文
 この夏、日本列島を襲った猛暑・豪雨・濁流・竜巻・・・私は大自然の恐ろしさを強くおもった。そして自然とは何か、とその意を探してみた。
 〈天地間の森羅万象。人間をはぐくみ恵みを与える一方、災害をもたらし、人間の介入に対して常に立ちはだかるもの。人為によってその秩序が乱されれば人間と対立する存在となる〉
 この解説書に深く首頷きながら、そこに浮かんできたのは〈ゆけむり〉であった。
 誰にでもふるさとがある。自然を大切にして、美しく明るく共存共生していこう。鉄輪温泉のゆけむりは天地の間の倖せの象徴である。心に身に優しい潤いを戴きながら俳句を詠もう。
 

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成25年春 優秀三句

倉田 紘文 選


豆まきの鬼が蹴散らす湯の煙り  久留米市  高橋 大輔

(評)節分の夜に「福は内、鬼は外」と唱えながら豆をまく。その家外に追われた鬼であろう。見事に別府の景を生き生きと描く。

春風に何を描くか湯のけむり  尼崎市  関 育子

(評)風にゆったりと身をまかせる湯けむりの姿。その姿がつぎつぎに一枚の絵となって人の目に心に焼きつく。春風と共演の絵。

カラコロといで湯坂にも春が来た  別府市  後藤 哲孝

(評)木製のはきものの下駄。それを言わなくても「カラコロと」ではっきりとその場面が耳を通して伝わってくる。明るい湯の町。
【四季のことば】 選者 倉田 紘文
 空間と時間 ー季語解説ー
 春も過ぎて夏の日ま進んで行きます。湯けむり散歩をしていると、鉄輪温泉の6月上旬でマンボウを海に帰し、その後一週間休園になるそうです。道々でいろんな花に出会いますね。
 「アジサイ」 アジサイは「の花」とも言います。四枚の花びらが一つの花なのです。目で見た空間の姿。そして「」の名もあります。咲き始めてより微妙に色を変えて変色の妙を楽しませてくれる時間を元にした名ですね。
 「ヒマワリ」 ヒマワリは「」とも言い、太陽の形と見たのです。一般的には「」と書き、太陽の動きに従って回ると信じられているのです。
 「サルスベリ」 サルスベリは幹が磨かれた床柱のようにつるつるなので、猿も滑り落ちるからついた名です。また夏から秋まで百日の長さをつぎつぎに花咲かせる見事さを讃えた「百日紅」(ひゃくじっこう)の名もあります。
 それぞれ湯けむりのやさしさと合う花です。

平成24年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成24年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


冬めきて湯気の御馳走地獄蒸し  鹿児島県  折坂 裕子

(評)温泉からわく湯気は「冬めきて」がとても似つかわしいですね。まさに別府鉄輪特有のおもてなしです。「御馳走さま!」

寒風に吹かれて足湯で一休み  大分市  金子 剛太

(評)「寒風に吹かれて」と「足湯で一休み」がなんとも面白い取り合わせ。まだ若い作者ならではの余裕が思われる。俳句は楽し。

湯けむりに包まれてゆく小春かな  東京都  高橋 三津子

(評)冬のはじめの暖かい日が「小春」。流石に湯けむりの里・別府鉄輪温泉ですね。「包まれてゆく」にこの上ない幸せがあります。
【四季のことば】 選者 倉田 紘文
 竹の秋 ー季語解説ー
 地中で筍が育つ3〜4月ごろ、竹の葉は黄ばんでかすかな風にもはらはらと散ります。それを黄葉にたとえたのが「竹の秋」です。
 この場合の「秋」は凋落の意をあらわしています。これに対して「竹の春」は、秋。竹の緑がもっとも美しく葉が茂っている時期をさす言葉です。
 竹は春と秋が入れかわった植物です。それで竹落葉は夏なのです。面白いですね。さあ竹の秋を楽しんで俳句を作りましょう。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成24年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


赤とんぼ血の池地獄生まれだな  別府市  持田 官星

(評)芭蕉旧く「俳諧はの童にさせよ」。三尺は七・八歳。官星君はまさに八歳。「赤」を通してにその生命のを上手に俳句にした。見事!

ゆけむりが宝となりて山粧ふ  別府市  浜田  博

(評)平成二十四年九月十九日、「別府の湯けむり・温泉地景観」として、別府のゆけむりが国の重要文化的景観に選定された。その「宝」(国宝)のゆけむりを回りの山々が紅葉で喝采している。別府の大自然万歳!

妻を待つ外湯のベンチそぞろ寒  長野県白馬村  重松  眞

(評)ふと南こうせつの「神田川」が心に浮かんできた。〈二人で行った横丁の風呂屋/いつも私が待たされた…〉。仲良き夫婦。「そぞろ寒」は気持ちの上で感じる晩秋の寒さのこと。ホホホと笑いを誘う句。
【四季のことば】
 物言えば唇寒し秋の風   松尾芭蕉
 人の欠点を批判したり、自分を自慢したりすると、後で後悔したり災いをこうむる。即ち口を慎めということ。芭蕉自身がこの句を自らの戒めにしたという。
 そこで思い浮かぶのが「夜道に日は暮れぬ」の諺。日が暮れたら慌てても仕方がない。ゆっくり、のんびり帰ればいい…。これもまた人の歩き方かも知れない。秋はいろいろ思わせてくれる。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成24年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


五月晴れ会話もはずむ足湯かな  徳島県阿南市  桜木 ツルエ

(評)五月雨のあとの五月晴れ。足湯で身も心もほかほか。楽しい会話の後、さあ湯けむり散歩に・・・そして一句を!

猛暑の日地獄めぐりで生き地獄  福岡県久留米市  牛島  健

(評)平成二十四年、今年は日本中が暑い夏であった。そして猛暑の日の続く中での地獄めぐり。十八歳の健君が別府で生き地獄を体験。

夕焼の色にゆれゐるゆのけむり  大分市  和田 こうせい

(評)〈夕焼小焼で日が暮れて…〉の中村雨紅の歌が聞こえてきそう。太陽が沈むころ西空が赤く燃え、晴天の前兆。ゆけむりも美しくゆれる…。
【四季のことば】
 「雪月花」---日本の四季における美しい風物のこと。でも「四季」にしては何か一つ足りない? そこでこの言葉の元を探すと
 〈春は花夏時鳥秋は月冬雪さえてすずしかりけり〉の道元の歌に出合う。即ち「」なのである。「雪月花」は漢字一文字で目に見える、「時鳥」は漢字二文字で耳で聞く。そこから雪月花の響きの良さで、四季を代表したのであろう。
 目に青葉山ほととぎすはつ      山口素堂
 谺して山ほととぎすほしいまま    杉田久女
まさに「耳を通してである。そこまで五感(目・耳・舌・鼻・皮膚)を以て俳句は作ろう。ちなみに正岡子規の「子規」はほととぎすなのである。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成24年春 優秀三句

倉田 紘文 選


出立の朝風呂に舞うなごり雪  熊本市 緒方 渉午

(評)鉄輪温泉での旅立ちの朝風呂。「なごり雪」が春の別れの美しい情感を誘う。大自然の優しい恵み。

三人の春のおしゃべりいでゆ坂  韓国慶州市 郭大基

(評)「三人」に関わる諺を挙げてみよう。「女三人寄れば姦しい」「三人寄れば文殊の知恵」等々。湯の町の春らしいあたたかさが広がる。

湯けむりのさわいで春の雪の舞う  別府市 亀田 俊美

(評)いかにも春の雪らしいやわらかさが漂う。湯けむりと白い雪との楽しい出会いが、目に心に伝わってくる。
【四季のことば】
 今年の春は天候の異変で寒く、桜の開花は遅かった。でもその後の暖かな日和で全国的に花を満喫した。桜は日本の花の代表で、俳句の「花」と言えば「桜」を指す。そこで桜の季語を拾って楽しんでみよう。
桜・山桜・八重桜・牡丹桜・遅桜・朝桜・夕桜・夜桜・家桜・桜の園・花時・花過・花冷・花曇・花・花見・観桜・桜狩・花篝・花雪洞・花人・花衣・花筵・花埃・花の宿・花の雲・花の雨・花便・花守・花の昼・花の下・花の宴・花疲れ・落花・花吹雪・飛花・花屑・残花・花片・花明り・花蘂・余花・葉桜・さくらんぼ・桜桃・桜紅葉・帰り花・狂ひ咲・他にもいろいろ・・・
 日本人の心の繊細さがここによく現れている。さあ、この夏も秋も冬も桜の句を詠もう。

平成23年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成23年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


鬼柚子の中に顔ある湯船かな  静岡県掛川市 鈴木 啓之

(評)冬至の日に柚子の実を浮かべた湯船。この湯に入ると風邪をひかないという。「鬼柚子」の厳めしい顔が邪気を払ってくれる。そして、その中にある顔がとても可愛い・・・。

初御空飛龍となりし湯のけむり  別府市 竹光 直子

(評)今年は龍年。「飛龍雲に乗る」(韓非子)の言葉がある。英雄がその才能をふるう時を得るのたとえである。湯けむりに自分の思いを重ねた精悍な句である。

鉄輪で新年迎え春を待つ  茨城県常陸太田市 渡辺 光江

(評)茨城県中北部にある常陸太田市。徳川光圀の西山荘など旧跡が多い町。昨年の東日本大震災により別府鉄輪で日々を送る作者であろう。「春を待つ」には深い思いが籠もる。
【四季のことば】
 以前この「四季の言葉」で書いたことのある「花言葉」。それに少し一文を加えてみよう。それぞれの花のもつ特徴・性質などに基づいて、象徴的な意味をもたせた語が花言葉である。
 「辛夷」(こぶし)は歓迎。葉に先立って香りある白色六弁の花を開く。
 「桃」(もも)は気立てのよさ。淡紅・濃紅・白い可愛い花を雛祭りに頃開く。
 「椿」(つばき)は気取らない優美さ。三春(初春・仲春・晩春)に咲き散らずに落ちる。
 こうして春の花を見つめながら、昨日までの冬の花に感謝し、春を正しく生きて行こう。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成23年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりの方に歩きて秋散歩  鹿児島市 芦屋 七海

(評)七海ちゃんは13歳。湯けむりの美しい鉄輪の秋の空を仰ぎながらの楽しい散歩。若い心と若い体がとっても清らかで爽やかですね。

温泉の同窓会や星月夜  横浜市 斉藤 雅弘

(評)別府温泉、鉄輪温泉。その温泉の名所で同窓会。温泉宿の明るい集いの様子と共に、窓の外には秋の夜の星月夜が美しく祝ってくれている。心に残る思い出の一夜。

湯けむりの一人遊びや萩の風  別府市 古賀 宜道

(評)萩は秋の七草の代表的な花で、昔から日本人に愛されてきた。可憐な花が枝ごとしなやかに揺れるさまは、もののあわれを誘う。そして、その空には湯けむりが風とたわむれている。まさに別府の秋の天地。
【四季のことば】
 平成23年は天・地・人の界で悲しいことが多かった。そこで次のことばを思い出しながら、静かに呟いてみた。
 「仏千人神千人」世間には悪い人もいるだろうが、一方では神や仏のような心掛けを持つ善人も多いのですよ。
 「思えば思われる」こちらに好意があれば相手も好意的になる。親切には親切で迎えれば、みんなが報われますよ。
 その諺を信じて絆を深め、明日へと歩きましょう。湯けむりに優しく心をあずけながら・・・。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成23年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


サングラスはずせば優し泊まり客  別府市 伊東 一美

(評)熱い日射しの中に不意に現れた客人。サングラスの威厳があたりを圧倒する。でも「はずせば優し」で、一気に和んでゆく。爽快なり。

緑陰に極楽風の露天風呂  札幌市 土井 厚二

(評)なんともいい気分のひととき。「緑陰」の涼しさ、「極楽風」の優しさ。そして「露天風呂」はまさに天国。

湯けむりも加はってをり雲の峰  東京都町田市 倉沢 桃子

(評)美しい自然と奔放で勇壮な自然。青い岬に囲まれた別府湾。ゆけむりの立ち並ぶ鶴見岳の裾野・・・。これも夏の日の見事な風物詩。
【四季のことば】
 江戸時代の儒学者、中江藤樹先生に「五事を正す」というとても素晴らしい遺訓があります。
 一、「貌」(ぼう)  和らいだ顔
 二、「視」(し)   優しい慈眼
 三、「言」(げん)  わかり易く話す
 四、「聴」(ちょう) 人の話をよく聞く
 五、「思」(し)   思い遣りの心
 あ、そうなんだ。散歩しながら実践しよう。一 ゆけむりに笑顔で対そう、二 ゆけむりに目を細めよう、三 ゆけむりに話しかけよう、風の日にゆけむりの話を聞こう、五 ゆけむりと一緒に朝を迎え、夕べを送り日々を平穏に暮らそう。
 「五事を正す」の「正す」は実践するということだそうです。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成23年春 優秀三句

倉田 紘文 選


あたたかき湯けむり届けみちのくへ  福島県須賀川市 根本 康子

(評)康子さんは福島県須賀川市の人。この春の東日本大震災により別府温泉で避難生活をしている。あたたかいゆけむりと、あたたかい人の心を届けたい。ふるさとへの切なる思いの句。

山地獄春が出てくる地獄から  鹿児島市 宮元 拓海(11歳)

(評)鉄輪にはいくつも地獄がある。その中の一つの山地獄。冬のねむりから覚めて、力強く春の様相になってゆく山地獄。「春が出てくる」がすごい!11歳の拓海君、立派です。

湯の宿の長き廊下に笹子鳴く  別府市 松井 うなみ

(評)湯宿のいくつもの部屋を結ぶ廊下。その先は広い温泉の湯舟は続いているのであろう。或るいは庭の露天風呂に続く廊下かも知れない。鶯の子を「笹子」という。まだチャ、チャとしか鳴けない子。春も近づいている。湯宿の鄙びの景が親しい。
【四季のことば】
 早春に初めて姿をあらわす蝶を、特別な思いをこめて初蝶といいます。春のさきがけの美しい躍動ですね。あたりには〈すみれ/たんぽぽ/れんげそう〉 が咲き、日本のすてきな春の訪れです。
 初蝶来何色と問ふ黄と答ふ     虚子
 白蝶も紫蝶もこの日より      素十
 白いゆけむりの上がる景色と合わせると、とてもきれいですね。
 さあ、次は夏の季となります。どんな虫たちが現れ、どんな花が「ゆけむり散歩」の道を飾ってくれるでしょうか。楽しみですね。
 そこで一句をどうぞ! 

平成22年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成22年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


虎落笛外湯めぐりの石畳  長野県白馬村 重松  眞

(評)冬の強い風が柵や竹垣などに吹きつけて発する笛のような音が「虎落笛(もがりぶえ)」。石畳の道を歩く「外湯めぐり」は、湯の町の季節の趣を伝えてくれる。

火事かしらと思ったけど湯けむりだ  東京都武蔵野市 中村 あゆみ(13歳)

(評)俳句は「575」と「季語」の二つが約束。「火事」は冬の季語。「火事かしらと…」を読みつづけると17音で出来ている。あゆ美ちゃん上手 (じょうず)!

湯けむりやこぼれてきたる寒雀  大分市 牧 一男

(評)寒中のスズメが「寒雀」。どこか姿もひきしまっていて可愛いらしくていじらしい。白く立ちのぼるゆけむりの中から「こぼれてきたる」は、とても詩的な光景。
【四季のことば】
 ゆけむり散歩をしていると、道端の小川や民家の門口などでよく冬の草木の花を見かける。例えばゆけむりの立つ湯宿の庭で石蕗(つわ)の花が目を引く。「ツワブキ」の花言葉は「困難に負けない」である。冬の寒さの中で美しい黄の花を咲かせている。
 又歩いていると蝋梅(ろうばい)の花の香りに出会う。「慈愛」「思いやり」がロウバイの花言葉。その芳香に救われてほっとする。そして、春の近い小川 の辺りでは猫柳が芽を出している。「自由」「思いのまま」が花言葉。厳しい冬を抜けて春への希望と夢を描き始めている。
 花言葉を心にしながら、鉄輪ゆけむり散歩を楽しもう。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成22年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりの中でいもうとおどってる  松山市 三谷 のどか

(評)俳句では「おどり」は盆踊りとなっている。この句ではそれと重ねてもおもしろいですね。仲のよい姉と妹。立派です。

湯けむりの天を指したる良夜かな  別府市 石崎 幸世

(評)仲秋の美椎名月の夜が「良夜」。なんとも平和な時空(時間と空間)がひろがっている。その中を真直ぐに伸ぶ由けむりの独壇場。別府鉄輪ならではの大景。

露天湯へ爪先上がり赤のまま  国東市 原田 逸子

(評)「赤のまま」はイヌタデの異名。赤い米粒に似た小花を多数つけるので、ままごと遊びで「赤のまま」(赤飯)として楽しんだのでこの名がある。露天湯への道端が懐しく描かれている。
【四季のことば】
 フランスの外交官のポール・クローデルが別府を訪れたのは大正十三年と十五年。もう八十五を過ぎている…。
  別府にわれ再び訪れん
  温かき温泉と温かきもてなし
  わが生命よみがえれ
  温かき温泉
  なごやけき人の心
われ再び別府に来らん
    (「北浜公園の詩碑」)
 この詩は油屋熊八へ献じられたものであるが、優しい心でつづられている。そして、夢物語であるが、もし今の鉄輪に来られたとしたら、この「湯けむり」をどう味わって表現してくれたであろうか?
 限りなく人々を癒やしてくれる湯けむりを__。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成22年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりや老鶯の声やわらかに  長野県上田市 中家 美幸

(評)「老鶯」とは夏鶯のことで、その鳴き方はこの上なく老練なのです。湯けむりに溶けるように美しい声が広がる平和で自由な温泉郷。

明易し足湯に入りて足るを知る  別府市 浜田 博

(評)「足るを知る者は富む」(自ら分に安んじ、それに満足する者は精神的に富む)とは老子の言葉です。開易い夏の日の素敵な感慨。これも「足湯」の効果。

湯けむりを果敢にぬけし夏燕  福岡県みやま市 紙田 幻草

(評)燕は春に南の国から渡って来ます。そして夏に子育てをして、秋に南方へ帰ってゆく。夏燕はその活動の最盛期。「果敢にぬけし」はその雄姿そのもの。
【四季のことば】
 諺を友にして
 今年の夏は本当に暑かった。酷暑・酷暑・猛暑・・・もうどうしょうもない・・・の思いの日が続いた。そんな時、ふと思い浮かんだのが、〈苦は楽の種〉〈苦あれば楽あり〉の諺。
 なんだか慰められているようないい空気につつまれた。そして窓に目を向けるとそこに、〈青空は目の薬〉があり、卓上には〈水は方円の器に随う〉の涼しいさがあった。
 〈物は考えよう〉・・・〈暑さ寒さも彼岸まで〉。暑さを温泉に溶かしてゆっくり湯に浸り、諺に心を遊ばせて爽秋を待とう。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成22年春 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりの里佐保姫の美しさ  愛知県岡崎市 柴田 清美

(評)佐保姫は春の野山の造化をつかさどる女神。秋の竜田姫に対する神。湯けむりの美しい佐戸の春の景色は、まさに佐保姫さまの美しさそのもの。

湯けむりのあしらひ上手春二番  大分市 淵野 陽鳥

(評)二月から三月にかけて、その年初めて吹く強い風が春一番。そのあと大陸の寒波が入り込んで来て強く吹く風が春二番。別府のゆけむりは上手にそれをあしらって受けとめるという。天晴れ。

極上の春を味わう湯舟かな  豊後大野市 加峰 英明

(評)物事の深い意味や良さを感じとり玩味するのが「味わう」こと。きわめて素敵な春の気分の湯舟。別府温泉万歳!
【四季のことば】
 今回もまた若い人たちの投句が沢山ありました。入選作にも小学生の四人をはじめ、四十代までの入選が二十名ほどありました。
 嬉しいことに、今年の文部科学省の発表で「ゆとり教育」に加えて、俳句が小学三年生より教科書に載るように決まりましたのです。
 自然(地球)を大切にして、季節(春夏秋冬)を楽しむ俳句。芭蕉は「俳諧は三尺の童にさせよ」と言っています。
 大人もまた子供の純真な心を常に忘れずに、俳句に浸し親しみましょう。そして「鉄輪俳句湯けむり散歩」を楽しみましょう。

平成21年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成21年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


冬夕焼影絵の町や湯のけむり  札幌市 土井 厚二

(評)冬の夕焼空を背景にして、ほのぼのと湯けむりが立ち並ぶ。まさに「影絵の町」の詞通りにロマンあふれる眺めである。

初笑い夢連れ登る湯のけむり  福岡県小郡市 田中 淑江

(評)「初笑い」が既に一年を明るい方へ導いてくれている。「今年もまた夢のある素敵な日々を過ごしましょう」と、湯けむりが誘ってくれている。

湯けむりの遊び心や冬の虹  別府市 古賀 宣道

(評)「冬の虹」は時雨の後に美しくかかったのであろう。その七色の冬の虹に向かって湯けむりが思い思いの姿で伸びてゆく。「遊び心」が遊蕩気分!
【四季のことば】
 今期の応募句の中に
  地獄めぐり伊豆も箱根もかんなわない  横須賀市 K・T
 という楽しい一句があった。なんとも素朴で、しかも旅の心を興じての素敵な詠いっぷりである。まだ若い作者。
 「かんなわ」「かなわない」の重ね具合が見事であり、訪れた土地を賛美す挨拶心がとても素晴らしい。
 旅を楽しく、人生を楽しく・・・・・その根本の在り方思い方を教わったような気持ちにさせて戴いた。深謝
 (ただ、俳句には約束があり、「五七五」と「季語」を守りたい。揚句は特選に値する内容だが・・・。ここでこれまた 深謝)

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成21年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


秋日和一遍さんのお計らい  福岡県小郡市 田頭 豊子

(評)天の恵みの秋日和。それを含めて今日の鉄輪の旅のよき一日は、鉄輪と大きく関係のある一遍上人さまのお計らい、という。信仰心の篤い作者の一句。

鉄輪の外湯文化や文化の日  愛媛県四国中央市 高井 耕文

(評)「別府市湯けむり景観保存計画」で、市はいろいろと調査をし、美しいゆけむりの景観を後世に遺うとしている。「鉄輪の外湯文化」はその一つの表れ。まさに文化的景観

ゆけむりに灯りともして夕紅葉              

(評)ゆけむりのほのかさ・・・夕紅葉のやわらかさ・・・それを「灯りともして」でいよいよ幽玄化している素敵な句。ゆく秋の詩情がやさしく描き出されている。
【四季のことば】
 ゆけむりのあるシーン
 「大分を旅する寅さんが、動物園の飼育員おしている気の弱い青年に恋のてほどきをする物語」(「男はつらいよ」)
 山田洋次監督・渥美 清主演のこの映画は、鉄輪のゆけむりの優しい背景が評価されています。
 「内向的な性格の姉が、仲の悪い妹を殺害して大阪から別府へ逃亡。そこで様々な人々との出会いを通じて生きるという意味を知ってゆく物語。(「顔」)
 坂本順治監督・藤山直美主演のこの映画も鉄輪のゆけむりの情景が効果を成している。この「顔」は数々の映画祭でグランプリを獲得。
 さあ、いま一度ゆけむりを仰いでみましょう。心が癒されますよ。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成21年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりよ夏空へとべ矢のように  松山市 谷本 章

(評)章君はいま7歳。芭蕉が言った「俳諧は三尺の童にさせよ」に当たる年齢。「夏空へとべ」も「矢のように」もずばり的を得ている。すっきりした気分。

緑陰にゐても地熱の音しきり  大分市 牧 一男

(評)「緑陰にゐて」とは涼しげでいかにも平安な居心地。しかし、そこは流石に鉄輪。どこからか「地熱の音」が地を伝ってやってくる。まさに幽玄閑寂境!

湯けむりやほほえみ交わす白木槿  熊本市 松永 克己

(評)木槿は晩夏から秋にかけて五弁の白い花を開き、一日でしぼむ。その美しさとはかなさが、「ほほえみ」にあり、湯けむりとよく似合う。湯の町の詩情。
【四季のことば】
 -初心忘るべからず-
 室町前期の能役者・能作者であった世阿弥。芸名は世阿弥陀仏。その世阿弥のことばに
 -初心忘るべからず。この句三ヶ条の口伝あり。是非初心を忘るべからず。時々初心を忘るべからず。老後の初心を忘るべからず-
 この初心とは「何かしょうと決心したときの純粋な気持ち」と辞書にある。
 <「初心」を忘れて見栄に走ったり、巧みに走ったりする。この初心を持ちつづけることは至難中の至難事なのである>。これは私が俳句を始めた頃の私の師のことばである。今も時々口ずさんでいる。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成21年春 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりにあたためられて山笑う  別府市 中野 貴美子

(評)「山眠る」は冬で「山笑う」は春。鉄輪温泉のまわりの山々の大らかさが美しく詠われている。勿論その絵の中心はゆけむりである。

鉄輪の湯けむり淋し春の暮れ  鳥栖市 前間 孝芳

(評)春には花が咲き、鳥が唄って楽しい季節。しかし、その反面、どこか淋しさや切なさが時に襲う。春愁という言葉もある。この句は詩的な旅情と旅愁がゆけむりに誘われたのだ。

湯けむりと戯れてみる古稀の春  神戸市 向嶋 郁子

(評)自立・不惑・知命・耳順と年を重ねて、いよいよ「古稀」。人生まだまだ遊びこころもありて楽しい春。
【四季のことば】
 -謙虚にそして楽しく-
 小説「鳴門秘帖」により大衆文学の第一人者となり、その後、国民作家と呼ばれて親しまれた吉川英治に次のことばがある。
 「我以外皆我師也」(わたし以外、人・物・大自然すべてが、私の師である。)
 また、正岡子規にはこんな手記がある。
 「草花の一枝を正直に写生して居ると造化の秘密が段々分かって来るやうな気がする」
 さて、そこで、ゆっくり湯けむりに学ぼうではありませんか。きっと楽しくなります。

平成20年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成20年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりに夢をたくして山眠る  別府市 片岡 学

(評)大らかなる傑作。ほのぼのと立ち上るゆけむりにいろんな夢をまかして、ゆっくりと眠りにつく山。大自然のこの大いさに人もあやかりたいものである。

湯けむりの宿に授かる七日粥  伊勢市 富田 定女

(評)正月七日に春の七草を入れて炊く「七日粥」。七草粥ともいう。そのほのかな色あいと湯けむりの白さがよく合う。また「授かる」のつつましい姿がなんともゆかしい。

輪になってみんなと足湯冬ぬくし  中津市 吉武 まどか

(評)「輪になって」には仲良し小好しの気持ちが広がり、「冬ぬくし」で平和なあたたかさも伝わる。みんなで足湯をたのしむまどかちゃんは九歳。
【四季のことば】
 「自然と共存共生」の楽天地
 〈吹けば南へふらり、吹けば東へふらり、物と争はざれば風雨にはるヽかなしびもなし・・・〉
 これは与謝蕪村の『蓑虫説』の中の一説です。冬の北風が吹けば逆らわずに南の方ヘぶらりと揺れ、西風が吹けば東へとふらりと揺れてゆく。このように自 然に逆わずにそれに身をまかせて従えば、被害を受けることはないですよ、というのです。冬は寒いですか、ゆったりと温泉に身をまかせていれば、きっと暖かな春がきます。自然と共存共生の心豊な日を送りましょう。平成の今は特にそれが望まれます。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成20年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


海よりの立待月や湯のけむり  大分市 伊南 朋朗

(評)仲秋の詩情が「海よりの立待月」に呼び起こされ、そこに向い合って白くゆけむりが立ち並ぶ。絶景なり。

足蒸し湯お国訛りで柿を食む  大阪市 仁喜 和彦

(評)なんとも親しい雰囲気の中で、美味しく柿を食べる。心身共に安らいだひととき。

湯の宿の軒端に萩の雨やどり  別府市 古賀 宣道

(評)別府鉄輪ならではの静かなたたずまい。秋の季感が、「軒端に萩の雨宿り」でたっぷり味わえてゆかしい。
【四季のことば】
 今回の応募作品の中で、入選句六十句・特選三句。その中で十代五人、二十代の人が十五と、若い人たちの入選が目立ちました。少子高齢化と言われ時世 に、この俳句箱への若い人たちの関心に感動を覚えました。次には特選も生まれると思います。頑張りましょう。そして、それを支えて下さるのはやはり経験豊な人たちです。みんなで自然を大切に、湯けむりに安らぎを載いて、美しい日々を過しましょう。俳句はそこから生まれます。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成20年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


若葉風湯煙高く誘ひけり  熊本市 大森 辰代

(評)青葉若葉の香りをただよわせながら吹く風を薫風という。「湯煙高く誘ひけり」のこの若葉風こそまさにその薫風の趣きをもっている。

ひと素朴ゆぶねも素朴梅雨の宿  伊勢市 竹内 茂翁

(評)俳句はその土地やその土地の人たちへの挨拶の意もある。この句の「素朴」という親しみある語には、その快い挨拶心も含まれているのである。

湯けむりの色に似ているゆりの花  別府市 岩屋 佳之

(評)白い湯けむりと。「ゆりの花」の白さがとても美しく重ねられている。十一歳の佳之君の素直な目と心がやさしいこの句を生んだのである。
【四季のことば】
 古くからの諺に〈雨降って地固まる〉がある。─嫌な雨でも降ったあとは地が固まってよい状態になる─。これは江戸時代の俳諧暑『毛吹草』に書かれている。また〈雨晴れて笠を忘れる〉もある。困った時に受けた恩を忘れやすいことをいうのである。ゆけむりのやさしい姿に癒された思いは、決して忘れてはいけない。そんな思いでゆけむりの俳句を作らせて頂こう。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成20年春 優秀三句

倉田 紘文 選


金婚を寿(ことほ)ぐ春の湯舟かな  日出町 高森 道生

(評)「おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」。と、ゆけむりが美しく場所を飾っている。

湯けむりにをみな饒舌雛の宿  香川県観音寺市 大野 領子

(評)「雛の宿」が雰囲気を全て集約して、楽しい時をつつんでいる。饒舌は明るく健康な女性たちの姿の象徴。

ゆけむりやスローライフの春うらら  中津市 大江 正人

(評)天が与えてくれた人の人生。そんなに急ぐことも焦ることもない、春のゆけむりがそれとなく教えてくれている。快哉。
【四季のことば】
 ミヤンマーのサイクロン被害、中国四川省の大地震。その被害者の人々の映像がテレビの画面に流れる。そして思うことは、地震の多いわが国のこと…。この大自然に対して人間は何が出来るのであろうか。それにはまず第一として、私たちは身の回りの自然を大切にして、それを守り、結果としてその自然と共存共生して幸せに暮らすことであろう。俳句は自然を舞台にして、季節を詠う文学だ。花や鳥、草や木、そしてゆけむりの温泉に親しんで句心を育て、自然に感謝したい。俳句はそのような面を持つ文学。さあ、あなたもゆけむりを仰いで一句作りましょう。世界の平和のために…。

平成19年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成19年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


舞う雪が海地獄へと墜ちてゆく  延岡市 夏田 有理

(評)自然の神秘さ。そして美しさ。雪は白く海地獄は碧。15歳の有理さんが見つけたこの世の大絵巻。見事な一句ですよ。

湯けむりを数へなほしてゐる小春  大分市 伊奈 冬花

(評)ゆったりと空に立ちのぼる湯けむり。一つ二つ三つ四つ。・・・十五、十六・・・あら、またそこにも・・・。なかなか数えきれない。小春気分

肌につく枯葉もいとし露天の湯  さぬき市 市村 繁子

(評)温泉の町ならではのやさしい気持ち。湯に浮かぶ枯葉が、波にゆれて、近づいて、肌にやわらかく触れる。大自然と一体になれる露天湯の浄土。
【四季のことば】
 「春は名のみの風の寒さや・・・」。吉丸一昌先生の「早春賦」の季節を前にして、今年の冬の前半は暖冬、そして後半はとても厳しい寒さに包まれた。しかし、昭和以前の生まれの人たちにとっては、この冬の寒さは当たり前に思える。そこでお勧めしたいのがやはり「鉄輪温泉ゆけむり散歩」。そして「ふれあいやすらぎ鉄輪温泉」にゆったりと浸って、身も心も休めることである。春を待つ俳句を一句心に浮かべながら・・・。さあ、鉄輪へ行こう!

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成19年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりや村を包みし虫しぐれ  熊本市 松永 克己

(評)湯けむりの柔(やわ)らかさと優(やさ)しさがとても美しく描かれている。その中で秋の虫たちがゆけむりの村を包んで歌を楽しんでいる。まさに浄土である。

赤とんぼ煙の先に止まろうか  大阪市 岩滝 明子

(評)この「煙」は当然ゆけむりである。秋の青空に立ちのぼる白いゆけむり。そこに赤とんぼが飛んできた。「煙の先に止まろうか」は面白い発想。二十代の作者の新鮮な句。

ゆけむりの中を気ままに敬老日  大分市 伊南 朋朗

(評)ゆけむりは自由自在に空へ伸び、いつも自然体の軽い動きで快く人の目を楽しませる。それに上手に乗って「気まま」に歩き、気ままに時を過す。「敬老日」が最適。
【四季のことば】
 私が師事してきた高野素十先生に、次のようなことばがある。〈天地の間のものすべてが、見る方に、詠(うた)う方に心があれば、すべて面白いものに心に映ってくる??〉〈政治でも生活でも心の温かさ、他に対する思いやり、これが一番大切だと思う。これが基調でないのはたゞ情けない〉この俳句以前の心の在り方を噛み締めながら、今日もゆけむりを眺め、ゆけむりの句を作らせて戴いている。春夏秋冬が楽しく巡ってゆく。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成19年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


一遍を恋ひ緑陰の像拝す  松山市 藤井 靖子

(評)鎌倉中期の僧・一遍は踊念仏を民衆に勧め諸国を遊行した。上人が浜の名は一遍上人に関わる。鉄輪温泉もまた深いゆかりの地。

色白は温泉育ち柚の花  別府市 松井うなみ

(評)柚は夏に白色の小花を咲かせ、その後に球形黄色のミカンに似た実を結ぶ。その花の白さを「温泉育ち」と褒め称えた。

宿の温泉につかり晩夏の風を聞く  札幌市 土井厚ニ

(評)季節の移りは風がまず伝えてくれる。旅の温泉での快さが心身をやすらげ、行く夏の風音に旅情を深めていく。まさに鉄輪の情緒の只中。
【四季のことば】
 旅人がその旅先の街を楽しめるるたまには、まずその街に住む人たち自身が楽しい生活をしていなければならない。「ああ、なんと気持のよい温泉地だ」という旅人は、必ず「これも住む人たちの心の温かさがあるから??」と付け加えるという。今回の俳句の中にも私はそれを大きく感じている。暑い夏も、人の心は涼しい。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成19年春 優秀三句

倉田 紘文 選


春眠の夢天国へ湯のけむり  別府市 永野忠彦

(評)「春眠不覚暁/処々聞啼鳥」の孟浩然の詩を彷彿させ、更に夢の中で天上の理想の世界へと湯けむりと共に昇る。別府ならでは、鉄輪ならではの快作。

湯けむりにつぼみふくらむひなまつり  広島県豊田郡大崎上島町 小島 忍

(評)三月三日の雛祭。木や草の花の蕾がゆけむりの温かみでふっくらとふくらむ。そして、その家の女の子もふくらと育ってゆく……。

春雷にひるむこと無し湯のけむり  千葉県流山市 柴田仁美

(評)やわらかく立ちのぼる湯けむり。でも、その姿とは別に「春雷にひるむこと無し」の強さを持つ。自然は絶大なり。
【四季のことば】
 この度の投稿の中に「早春の空を包みて湯のけむり 春雄」という優しい一句があった。まだどことなく冴えている空を、優しく柔らかく包んでほぐす湯けむりの情感。自然の営みの機微に触れた素敵な捉えである。また最近になって私の目に止まった句に次のようなのがあった。〈ねぎらひのことばいただく夏落葉〉。夏日の中でどこか疲れ気味の心と身体。そこにはらり降って来た夏落葉?。夏が来て、風が来て、そしてその時が来て夏の落葉となった木の葉の宿命。「そう、自然にまかせればいいのよ」……これがこの句の作者への夏落葉のねぎらいの言葉であったのであろう。そんなことを思いながら湯けむりを眺める。湯けむりはいつの日もねぎらいの 言葉をかけてくれている。

平成18年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成18年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりが北風(きた)にふかれまいあがる  別府市 中野真菜美

(評)真菜美ちゃんは11歳。冬の日の北風の中で白く飛ぶようにまいあがる湯煙を、美しい絵にして描いたのです。別府鉄輪の素敵な趣です。

鉄輪に湯治十日や日脚伸ぶ  四日市市 山口たけし

(評)「湯治」「十日」(トウジ・トウカ)のトの響きがとても快い。だんだん日が長くなり、春に近づく喜びが明るく伝わってきます。心身ともに健康増幅。

小春日の野菜を洗う湯治宿  大分市 平田 初子

(評)「小春日」は小六月ともいい、初冬の晴れた暖かな日和。湯治宿での美味しい食事を想像させる「野菜を洗う」には、平和と幸せがあふれています。
【四季のことば】
 今回も子どもさんたちの作品がとても多かった。そして十代・二十代・三十代の人たちも佳作を沢山投稿してくれていた。(佳作に十句入選。)自然を大切に、季節と共に、そして交わりの人たちと仲良くすることが根本にある「俳句」の世界にとって、この若い人たちの参加は大いに意義のあること。俳句の本質の一つに「挨拶」がある。「おはよう〜」「こんにちは〜」「あたたかくなりましたね〜」などの、まわりの人たちへの労りの言葉なのである。人だけでなく、鳥や草花へも優しく声をかけ、楽しく生きてゆく、これが俳句の原点。この心があれば、悲しい「いじめ」もなくなると思う。俳句は現在の社会で大切な役目も果たしている。「鉄輪俳句湯けむり散歩」に夢を託そう。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成18年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


八湯をめぐり天下の秋を知る  日出町 高森 道生

(評)別府八湯は有名。鉄輪温泉もその一つ。泉質の多彩さと湯量の豊かさは共に日本一。まさに「天下の秋」を知る最高の措辞。

温泉の町の俳句ポストにつづれさせ  北九州市 中村 ふき

(評)「鉄輪俳句・湯けむり散歩」の投句を待つ「俳句ポスト」。そのあたりで「つづれさせ」が鳴く。つづれさせはコウロギのこと。自然がたっぷり。

湯けむりの右に左に神の留守  別府市 片岡  学

(評)神々が出雲大社に集まるという旧暦十月(神無月)、その神の留守の間を湯けむりが自由自在に、右に左に遊び心で靡いているのだ。楽しき景。
【四季のことば】
 「苛め」の語を辞書で引いてみた。<いじめること。特に学校で、弱い立場の生徒を肉体的または精神的に痛めつけること>とあった。そこで次に「虐待」の語も引いてみた。<むごく取り扱うこと。残酷な待遇>。二つともなんとも悲しい言葉である。人の世にあってはならない行為である。そこで「行為」の語も知りたくて調べてみると、<明らかな目的観念または動機を有し、思慮・選択・決心を経て意識的に行われる意志的動作で、善悪の判断の対象となるもの>とある。思慮・選択・決心、こうつぶやきながら湯けむりを眺めている。自然の大らかさ、自然の素直さ、自然の美しさに心を洗われながら。そして、俳句に世界の有り難さをつくづく思ったのである。<子供たちに俳句を>切なる願いと祈りの言葉が胸に溢れた。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成18年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


九階の窓にゆけむり夏の月  福山市 北村 京子

(評)高層のホテルの夏の景。「九階」とはずい分見晴らしもよかろう。ゆけむりの上にある夏の月がいかにも涼しい。

万緑の中を湯壷へ長廊下  大阪市 沖村 銅羅

(評)自然の中に存分に浸っての温泉場。「万緑」に英気を授かり、長い廊下を歩いて元気に湯壷へ。心身共に健康。

熱帯夜もう一風呂を浴びて寝る  別府市 楢崎 好江

(評)暑くて暑くて眠れない熱帯夜。「もう一風呂を浴びて」には鉄輪温泉ならでは恵まれた姿がある。これも至福。
【四季のことば】
 もう何回言っただろうか。「俳句は挨拶」という理念を。挨拶ならば相手を常に思い遣らなければ意味がない。相手の幸せを願うからこそ、やさしく声を掛けるのである。俳句には季語が必要である。即ち季節の言葉をもって、挨拶を自然の中で交わすのである。自然を大切にして、まわりの人を大事にする心を詠うのが俳句の本質。テレビ、新聞であまりにも悲しい事件が報道される度に、「俳句を通して少しでも平和な日々を守ろう」と思う次第である。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成18年春 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりに迎えられたる初燕  福岡県高田町 紙田 幻草

(評)湯の町に住む人はみな心があたたかい。それは大自然の姿、即ち、初燕を優しく迎えるゆけむりの美しさからも教わったのであろう。

地獄見て衿を正すや落椿  茨城県日立市 猪股 民子

(評)自然の荘厳さそのものの鉄輪の地獄の実相。人生もまた厳しくあらねば、、、と思う。そして、落ちてなお姿を正している椿の花の見事さにも敬服を新たにする。自然には学ぶことばかり。

湯けむりの自在に舞いて春嵐  別府市 山本 聡明

(評)「春嵐」は別に「春疾風」や「春突風」「春烈風」ともいい、春に吹く強風のこと。それに応ずる湯けむりの「自在に舞いて」が大らかで頼母しい。
【四季のことば】
 二○○六(にっぽん丸)世界一周クルーズの俳句講師として航海してきた。インド洋上に浮かぶモリジブは1190もの島からなる群島国家。その島々の海抜はなんと6メートル程度という。地球温暖化による氷河性海面変化は、この島国の存亡に直面している。地球を大切に、人間はもっと地球にやさしくなければ、、、この時、ふと、ゆけむりの別府の自然の美しさ、そしてその大切さをしみじみと思ったのである。

平成17年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成17年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


初雪や二人じめして真ひるの湯  徳島県上坂町 森  朱莉

(評)十歳の朱莉ちゃんの句。この句には「祖母とわたし」と前書きがあった。これだけでこの句の喜びにあふれ、愛にあふれた思いがよく伝わってくる。美しい旅になりましたね。

湯の神の裳裾を濡らす時雨かな  横須賀市 香川 英彦

(評)温泉の神様として祀られたその神の裳裾が、はらはらと降ってきた時雨に濡れている。なんとも詩情の濃い場面である。心に残る絵のような一句である。

湯けむりに再会約し帰り花  別府市 松井 うなみ

(評)春の桜の花が約束をしていたとおりに小春日和に誘われて帰り咲いた。桜の花の約束の相手はやさしく立ちのぼる湯けむりだったのだ。自然の美しい別府ならではのこと。
【四季のことば】
 二○○六年の新春にとても有り難い言葉の書き物を戴いた。
  一、世の中で一番美しいことは、すべてのものに愛情をもつことである。
  一、世の中で一番悲しいことは、うそをつくことである。
 これは「福沢諭吉訓」の七つの中の二つである。「一番美しいこと」に「愛情」、そして「一番悲しいこと」に「うそ」をあげて、人の世を平和に導こうとした諭吉先生に心から感動を覚えた。
 そして、「愛情をもつ」、「うそをつかない」ものとして、私は湯けむりの優しい姿に思いを重ねたのである。大自然の大らかさ、大自然の素直さ、更には大自然の力強さを、この湯けむりは全て包んでいるのである。「湯けむり散歩」の奥深さもここにその根源があるのではなかろうか。
 今回の俳句を反芻しながら頷いている次第である。さあ、湯けむりを詠いましょう。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成17年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりのレトロの街に小鳥くる  大分市 森田 里華

(評)「湯けむり」「レトロの街」とはなんと好もしい取り合わせであろう。そして、そこに「小鳥くる」と秋の美しい色鳥を登場させ、舞台は完璧。

手をつなぎいで湯の坂や蔦紅葉  松山市 井上 由美子

(評)「手をつなぎ」にゆったりしたロマンがある。「蔦紅葉」は秋の紅葉を代表する美しさをもつ。その道は「いで湯の坂」。ドラマの一コマ。

天高くどこまで昇る湯の煙り  別府市 森 博吉

(評)秋の大自然の崇高さがここに象徴されている。「どこまで昇る」にはその無限の神秘が活写され、人の手の及ばない世界を詠嘆しきっている。
【四季のことば】
 今年の秋は全国各地で講演をしてきた。その中で韓国の釜山大学での「韓国日本語・日本文学学会」全国大会の基調講演が深く重く心に残っている。演題は「俳句の心」。話の中心は、(俳句は挨拶である。挨拶は相手に思いやりの心がなくては意味がない。花を詠み、鳥を詠む時、花へ優しい眼差しを向け、鳥に優しく声をかけて、共に生きている生命を大切にしながら句を作らせてもらう、、、)。
 自然や季節に親しみ、隣人(隣の国の意も含む)と互いに手を取り心を寄せ合って生きてゆく。この思い遣りの心こそが俳句の本質なのだから。
 「私たちの学校からも、沢山の学生が別府に留学しています。私も何回か別府を訪ね、温泉とゆけむりが大好きです。」
 こんな言葉も学会の後の懇親会では何人もの先生方から聞いたのである。俳句は挨拶。挨拶は相手への思い遣りなのである。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成17年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりの路地裏マップ夏つばめ  大分市 後藤 秀子

(評)「路地裏マップ」にいかにも懐かしい湯町気分がある。夏つばめが涼しく飛ぶ。

地獄蒸し食べて極楽せみしぐれ  春日井市 溝口 節二

(評)俳句は滑稽の文学でもある。「地獄」と「極楽」の言葉遊びが絶妙。短命の蝉がしきりに鳴く。

湯けむりの立つ大空の月涼し  大牟田市 松吉 良信

(評)「涼し」は誉め言葉。夏の昼の暑さに比べて、湯けむりの上る夏の夜空の月の美しさ。それが「涼し」である。
【四季のことば】最近、ある子ども俳句大会で次のような句に出会った。(父さんに教えてもらう平泳ぎ)(小学5年生・橋本佳子)。父親と娘のほほえましい姿が誰の目裏にも浮かぶと思う。現在の世相の中で、実際にある素晴らしい光景として、強く惹かれた一句であった。またこうする娘たちの孝行の実践現場。このような心が今の子どもたちにもちゃんとあるのだ。大会を終えて帰ってきて、窓から鉄輪の湯けむりを眺めながら、とても幸せな気持ちに満たされていた。いつの日も湯けむりは大きな愛情を添えてくれているのだと、つぐづく思った。「湯けむり俳句」の一句一句も又そういう思いにさせてくれるのである。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成17年春 優秀三句

倉田 紘文 選


湯の町のホテルを抱きて山笑う  松山市 品川 守人

(評)大らかで暖かな句。「湯の町」だけでも心が癒されるのに、「山笑う」の大自然が優しく包んでくれている。

手習いの絵筆も持って春湯治  奈良県 上西 順正

(評)春の湯治はこの上なく心身を安らげてくれる。自然の有り難さと季節の温かさのその恵みの中で、「絵筆」を使う幸せ。

掛け湯して春のポーズで浸りけり  別府市 永野 忠彦

(評)さっと「掛け湯」をして身を正、それから軽々と「春のポーズ」をとって湯に浸る。その春のポーズが明るくて、健康の証。
【四季のことば】平成の市町村大合併の最中、それぞれの市町村名が消えようとしている。その中で先祖代々の親しい地名を遺そうとする動きも出ている。総合雑誌『俳句&あるふあ』(毎日新聞社)の「日本をあるく」ではこの六月に"別府"を尋ねることになっている。(紘文同行)。そして、NHK学園では昨年につづいて今年も十月に「別府俳句大会」を催すこととなった。二十一世紀に遺したい日本の風景で「別府の湯けむり」が富士山についで第二位。"別府""鉄輪""ゆけむり"は永遠の相を持っている。今回もそれを証明する秀作が多かった。

平成16年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成16年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


手鏡に写る湯けむり初明かり  下関市 藤川 ふう子

(評)窓の外の美しい湯けむりが、白くふわりと「手鏡」に写る。いかにも別府らしい初明かり。

大寒に負けじと熱く地獄噴く  別府市 小林 むつ子

(評)二十四節句の一つ大寒は大自然の厳しさを象徴する。それに立ち向かう地獄。人の手の届かない壮絶な世界。

露天湯に立つ観世音年明くる  宮崎県 佐藤 曾秋

(評)大慈大悲で衆生を済度する観世音菩薩さま。新しい年もみんな平和でありますように。
(総評)2005年・改めて思うこと: この世の中で唯我独尊で生きていけるものは何一つないのではなかろうか。一期一会を大切にして、互いに相手を思い遣り、助け合ってこそ生命は互いに輝くのであろう。人は湯けむりによって心を癒され、湯けむりは人々に賛嘆されてますます伸びやかに空を舞う。支え支えられてこそ本当の心は通い会う。今、その大切「心」を俳句で見つめ直そう。鉄輪愛酎会主催の行事がもう十数年も前から続けられている。自然の中で自然と共に生かされている人間を思えば、豊かな温泉にゆったりと身を沈めさせてもらえる至福に感謝せずにはいられない。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成16年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


湯の宿の投げ入れゆかしすすきかな  福岡市 山口 真由

(評)「湯の宿」と聞くだけでも何故か心が安らぐ思いがする。それに加えて、床の間に芒がさりげなく活けられいよいよ惹かれてゆくよ。

鳥渡る足湯に癒す旅疲れ  松山市 好川 照美

(評)秋もすすみ、海を渡って北方より渡り鳥たちがやってくる。それを眺めながら「足湯」に浸って身心を癒す旅人の作者。自然と一体になった旅情句。

露天湯をのぞき見なさる後の月  別府市 楢崎 好江

(評)陰暦八月十五夜に対して、九月十三夜の月が「後の月」。その頃はもう晩秋の気配がどことなく漂う。「のぞき見なさる」とは、なんとも粋なことよ。
(総評)ちょうど今回の選句をしている最中に、スマトラ沖地震の報が入った。先に新潟県中部地震の災に大きく心を痛めていただけに、自然の底知れぬ恐ろしい力が全身を打ってきた。人間の存在のなんと小さいことか!
 でも、本当にそうであろうか。自然に比べれば確かに人間は小さい。しかし、その小さい人間もその自然に身を寄せ、自然と一体になれば大きくなれるのではないか。澄んだ空に立ちのぼる大ゆけむりを仰いでいるうちに、心はいつかゆけむりと一つになって悠々と大きな自然そのものになってゆくではないか。
 自然と人間 - 俳句はその仲立ちをいつもしてくれている。さあ、自然の中で自然と共に再び人間の存在を確たるものにしていこう。
 「そこで一句」をお勧めします。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成16年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりをまとふ観音若葉風  津市 大井 直子

(評)観音は観世音の異称。大慈大悲の徳があり、世人の救いの求めに応じてくれる菩薩である。白い湯けむりにつつまれ、若葉の風に吹かれるお姿はこの上なく優しい。思わず掌を合わせたくなる。

セミがなく湯けむり散歩もくもくと  中間市 末廣 誠亮

(評)誠亮君は11歳。夏休みで鉄輪を訪れたのであろう。セミの声を浴び、湯けむりを眺め、句碑を巡ったのかも知れない。「もくもくと」が夏の日の道筋を思わせてくれる。元気な足取り。

湯けむりを永久に頂く月涼し  別府市 岩崎 幸世

(評)場面を演じているのは「月」と「湯けむり」。月は湯けむりを戴いていよいよ美しく空を歩み、湯けむりは月への光を戴いてますます人目を引く。夏の涼しい夜空がここに在る。
(総評)この世の中で唯我独尊で生きていけるものは何一つないのではなかろうか。一期一会を大切にして、互いに相手を思い遣り、助け合ってこを生命は互いに輝くのであろう。人は湯けむりによって心を癒され、湯けむりは人々に賛嘆されてますます伸びやかに空を舞う。支え支えられてこそ本当の心は通う。俳句はその仲立ちが出来ると思う。そういう意味でも一句一句を味わって欲しい。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成16年春 優秀三句

倉田 紘文 選


牡丹雪やみ湯煙の立ち昇る  福山市 村上 ツヤコ

(評)「牡丹雪」とは春の淡雪のこと。美しくはかなく消えてゆく雪の姿を称えた言葉。湯煙の立ち昇る空がくっきりと目に心に浮かぶ。湯の町の春の詩情があふれている。

いつか来た道ゆけむりとつくしんぼ  臼杵市 野本 俊介

(評)「この道はいつか来たみち/ああ、そうだよ・・・お」の歌も出てきそう。「ゆけむりとつくしんぼ」の幼き日の思い出が、道の辺の景を懐かしくしている。

湯の町を裾に引き寄せ山笑う  別府市 伊東 一美

(評)湯けむりを立ちのぼらせて湯の里鉄輪の町がひろがる。その明るくてやさしい町並の景を引き寄せて、背後の山々が楽しい芽吹きの姿を見せている。まさに春。
(総評)大分県企画・発行で『風の四季』-俳句でつづる大分の風景-(佐伯印刷)が上梓された。その中に別府市の数々の名所俳句も載っている。(ゆけむりの風と遊べる小春かな 紘文)の鉄輪のゆけむりの景色もその一つ。美しい自然に感謝し、優しい町の人々に感謝し、町を守り町を起こす愛酎会の皆さんに心よりお礼を申し上げたいと思う。そして、これからも、「鉄輪俳句・湯けむり散歩」で共に俳句を楽しむ人たちと、この鉄輪温泉の自然を大切にしてゆきたい。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成16年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりに弾みをつけて餅を搗く  大分県別府市 河野 弘志

(評)流石に湯の町ならではの正月の風景。「弾みをつけて」が目出度くて快い。きっとよい年になる。

着ぶくれて足湯に並ぶ膝小僧  兵庫県姫路市 松本 典子

(評)いかにも素朴で鄙びた場面。まるまるとした膝小僧がなんとも可愛らしい。ほほえましい一句。

行く年を見送っている湯のけむり  大分県日出町 高森 道生

(評)行く年来る年。大自然の時の流れの中で常に変わらない姿の湯のけむり。「行く年を見送っている」には余裕がある。
(総評)地球温暖化でいろんな現象が伝えられている。四季のはっきりしている日本でも、ときどきその季節の姿に異常が感じられるようになった。時ならぬ花の開花、季に合わない黄砂、そして突然の豪雪等々・・・。でも、大きな見方をすれば、春夏秋冬は順序通りに廻り、四季の花々も大方は季を忘れていない。その自然に比べて人の心はどうであろうか。文明や科学の進歩発展の中で、そしてそれらに囲まれた生活の中で、人の情けがどんどん薄らいでいるのではなかろうか。(春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さへてすずしかりけり)の道元の歌境にいま一度戻りたいと思う。鉄輪俳句湯けむり散歩にはその思いに叶う作品が沢山寄せられている。

平成15年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成15年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりの中くぐり行く残暑かな  鳥栖市 渡辺 キヌ子 簡保海南荘

(評)これも大自然と共に生きている人間の一場面。「中くぐり行く」が自分の実在感を強く示している。清爽の秋がその向こうに待ってくれている。

灯点りて闇染めかえし紅葉かな  別府市 福田 安子 鬼石の湯

(評)庭の灯が点って庭の木々を浮かび上がらせる。秋の闇の中に「紅葉」が美しく現れたのである。「闇染めかえし」が実に見事な惜辞。

秋風や長湯の妻を待っている  川崎市 小野寺賢一 ひょうたん湯

(評)「神田川」(南こうせつとかぐや姫)の歌にも確かこういう場面があったと思う。しかし、この句の「長湯の妻」を秋風の中で待つには一味が加わる。
(総評)あたたかな春の日も仏様のみ心によく叶うが、清爽な澄んだ大気の秋も仏様のみ姿に合うような気がする。その仏様の御目は半眼である。半眼とは「半分ほど開いた目」と、辞書にある。外を見る目と内(自分の心)を見る目が半々なのである。即ち、ほどよく内外が心に映し出され、調和のとれた平和な世界がそこには在るのである。俳句を作るとき、しっかりと外の世界を見て、つぎに両眼を閉じて静かにわが心の内を見る。そして、両方の映像が重なったところを、五・七・五の言葉に載せたいと思う。秋の清澄な季節の中で、、、

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成15年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


うたせ湯にほどなく打たれ桐の花  別府市 河野 靖朗 上人湯

(評)桐の花の淡い紫にはどことなく郷愁があり、「うたせ湯にほどよく打たれ」の快さがその気分を育てる。

湯けむりの自在にかはす青嵐  三重町 小杉 優子 鬼石坊主地獄

(評)白い湯けむりと、青葉若葉を吹き渡る青嵐が大自然の有りのままの姿を見せてくれている。悠々自適の大きさ。

岩風呂を一人じめして夏の宿  奈良県 上西 順正 やすらぎの宿由布

(評)まさに温泉浄土である。「一人じめして」の気分の良さは最高。夏の日の心身が十分に癒されている。
(総評)私の机の前に置いてある暦に、「今日の一言」としてこう書かれていた。「一生懸命の語源は一所懸命と書く。与えられた所に懸命になれば道は開く。」成る程と思った。そこでついでに明日の暦を開いてみたら、「働くとは、はたを楽にすること。仕事とは役に立つこと。」であった。そのことをしみじみと感じ取って、今日も自然の中で季節の恵みに感謝しながら、好きな一句を作ってみようと外に出た。歩きながら世界のことを思い、日本の国のこと、そしてまわりの人のこと、更には自分の生きることへを思いは移っていった。一句の俳句の根底には、いつも自然と人の世が両輪として在るのである。湯けむりはいつの日もその心を癒してくれる。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成15年春 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりの空を涼めて燕来る  愛媛県 長戸 ふじ子 白池地獄

(評)燕は春、日本に飛来し、夏に子育てをして、秋には南の国へと帰ってゆく。今年もまた「湯けむり」との出会いで別府での生活が始まった。燕は国際派である。

岩風呂の粗き岩肌木の芽風  別府市 中根 剛誠 ひょうたん温泉

(評)自然の自然そのものの荒々しい表情が、かえって人の心を素朴に、そして純粋にしてくれる。「木の芽風」がそれをやさしく包んでくれている。自然がまだそこらにいっぱいある鉄輪。

春の陽を浴びて別府の湯に浸る  宮城県 秋山 みやこ ひょうたん温泉

(評)宮城県からお越しのみやこさんは、傘寿を越えて八十二歳。「春の陽」(明るい太陽の光)を全身に浴び、別府の湯(豊かな温泉)に身を癒しているのである。是非、またいらっしゃーい。
(総評)先日、鉄輪俳句・湯けむり散歩の十基目の句碑除幕式が催された。一年に一基ずつこの人情深い町に生まれつづけ、十年になったのである。全国各地から、それに外国の人々も訪れるこの湯けむりの里・鉄輪の地に、心を優しくしてくれる句碑に刻まれた一句一句。自然と人生、旅人と土地の人たちとの美しき出会い。この地は二十一世紀に求められているまさに理想郷である。その仲を取り持ってくれた愛酎会のみなさんに、こころより敬意を表する次第である。

平成14年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成14年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりの高く大きく夏来る  新潟県 長沼 典子 地獄原温泉

(評)自然の季節の移りを堂々と描ききっている。「高く大きく」の最高の賛辞により、湯けむりの里がこの上なく輝いてくる。

海地獄坊主地獄の梅雨深む  熊本県 浦 みつる ホテル石松

(評)春から夏へ、そして梅雨を迎える。雨は全ての生命を育てると同時に、あまり続くとどことなく暗さも持ち込む。地獄の梅雨の鬱々とした日々。

湯けむりを腹いっぱいに鯉のぼり  別府市 田中 田城 上人湯

(評)流石に世界に誇る湯の町別府の鯉のぼりの雄姿。「湯けむりを腹いっぱい」がなんとも明るく、大らかで愉快な一句。
(総評)最近、ある本でいくつかの素敵な言葉に出会った。「知はいつも情に一杯食わされる」(ラ・ロシュフコー:フランスのモラリスト)。人情、これに勝るものはなさそうである。「わたしは見ました、知りました、信じました、目がさめました」(コルネイユ:フランスの古典劇詩人)。百聞は一見に如かず、であろう。「毎日の中で、一番むだに過ごされた日は、笑わなかった日である」(シャンフォール:フランスのモラリスト)。笑う門には福来る、とはよく言ったものである。鉄輪のゆけむりを眺めながら、「鉄輪に来ればこれらのことはみな満たされる」と私はつくづくと思った。「鉄輪俳句・湯けむり散歩」の素敵な句が心の中にあってのことである。

平成13年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成13年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりの機嫌よろしき小春かな  別府市 今村 節子 上人湯

(評)小春日和には人も鳥も、木も花もみんな明るい気分になる。そのことをゆけむりにまで広げて、「機嫌よろしき」とは素敵な捉え方である。青空を背景に白いゆけむりが自在に伸びている。

返り咲く花にやさしき湯けむり  豊中市 小畑 晴子 郵送

(評)「返り咲く花」は天の温かな恵みであり、その桜の返り花をやさしくつつんでいる「ゆけむり」もまた美しい慈しみの姿である。

冬の蒼独り占めして海地獄  福山市 井上 蒼月 温泉閣

(評)「蒼」は青と同じ。あたりのものが枯食に染まってゆく冬の景色の中で、海地獄が「蒼」い波を漂わせて人目を引いているのである。清浄なる一句である。
(総評)あるテレビ番組を観ていて、大いに教わることがあった。
 「我々人間には本当の意味に於て、発明ということはない。それは、つまり大自然の姿の発見・再現の域にある。人間の造り出したものは、その本質においてはみな自然の模倣に過ぎない。発明と創造は神の手になるのである」
 俳句もまたそうかもしれない。自分の発想といっても、それは自然を観察して、自然の恩恵の中で授かるもの。鉄輪には自然がまだ十分に残されており、ゆけむりの空を仰いでいて、つくづく私はそう思ったのである。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成13年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりの中より生まれ秋の声  豊中市 小畑 晴子 郵送

(評)青空の澄んだ中へと立ちのぼる湯けむり。その爽やかな白い湯けむりの中から秋の声がしたという。清潔な一句である。

新涼の力をもてる湯のけむり  大分市 中畑 耕一 地区公民館

(評)「新涼」とは、秋に入ってほっとするような涼気のこと。心身ともに暑さから蘇るような気持ちのよさがある。「力をもてる」に秋の湯けむりの爽快さがある。

露天湯に交す盃夕紅葉  宮崎県 佐藤 曾秋 丸神屋

(評)絵になり、詩にもなる素敵な一句。「至福」(この上もない幸福)という言葉は、このような時に使うのであろう。「夕紅葉」が季節の恵みである
(総評)「別府の湯けむり」が二十一世紀に遺したい百景で富士山についで二位であった。そして更に、「日本の香り」百選にもまた選ばれた。
 今や湯けむりは二十一世紀の人間(生命あるもの全て、と言ってもいい)にとって、最高の癒しの宝物となったのである。
 希望と夢を抱いて始まった二十一世紀、この二○○一年はふり返れば悲しいことばかり。その象徴の文字が「戦」であった。二○○二年はこの「別府の湯けむり」で全てを癒したい。「湯けむり俳句」がその小さな器になれたら幸いである。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成13年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりを変幻自在青嵐  別府市 立花 美子 つるや

(評)「思いのまま」という言葉がある。自分の思い通りに相手を操ること。いま、ここの句の青嵐が湯けむりを思いのままにしていることに通じる。自然の大きさがここに在る。

人絶えて外湯に遊ぶ夏の月  福山市 井上 蒼月 温泉山

(評)夏の庭もやゝ更けてきた。道にも外湯にも人影がない。その外湯の大空に、悠々と夏の月が一つ遊んでいるよ。まさに月涼しく。

別府湾一望にして夜の秋  熊本市 近藤 ひかる ホテル風月

(評)「庭の秋」は晩秋の季語。昼の間はまだ充分に暑いのであるが、夜に入るとだんだん涼しくなり、なんとなく秋の気配が身辺に漂う。鉄輪のホテルの窓からは別府湾がひろびろと眺められる。旅情と旅愁がよぎる。
(総評)平成になって今ほど人の心の平和(やすらぎと言ってもよい)が求められる時はなかろう。新聞でもテレビやラジオでも毎日毎日、痛ましいニュースが報じられている。
 鉄輪の温泉に浸り、湯けむりを眺め、花や鳥といっしょの空気を吸い、好きな俳句を口ずさむ・・・。
 いま一度、日本の心を見つめなおしてみたいのは、私ひとりではなかろう。「湯けむり散歩」の俳句を拝誦しながら、つくづくそう思ったのである。

平成12年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成12年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりに煽られ上手返り花  大分市 安田 郁代 インターネット

(評)湯けむりにやさしくほぐれさせられた桜の返り花。それを「煽られ上手」とは楽しい捉え方である。小春日和も思われる。冬あたたかな湯の町。

湯けむりの中の語らい年惜しむ  福岡県 田代 フサエ ホテル石松

(評)いかにも鉄輪温泉郷ならではの一句。ゆく年くる年を湯治をかねて、ゆっくりと送っているのである。心もまたあたたかな人たち。

鉄輪へ三日の湯あみ京女  京都府 黒田 貴勢 瓢箪温泉

(評)「三日」とは正月の三日の日をさす。京都からはるばると鉄輪温泉を訪れて、ゆったりと、「三日」の湯に心身を安らげているのである。「京女」が艶を想わせる。

投句総数 442

(総評)21世紀を向かえるための去年今年であり、2000年の冬、2001年の新年の句が寄せられた。
 その象徴的なこととして、インターネットでの応募句があり、また中国からの留学生の句もあった。いよいよ新世紀へ向けて「鉄輪湯けむり散歩」の俳句も動き出したのである。また、別府市をはじめ大分、日出などの近郊の人たちからの応募も増えた。この俳句交流が定着した証であろう。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成12年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


新涼や午前六時の露天風呂  田川市 岡本 恒子 海南荘

(評)暑い夏が終わって、朝夕が涼しくなって来る。その涼しさが、「新涼」であり、秋が実感される。「午前六時」の設定が見事。

湯けむりにくすぐられては木の実落つ  別府市 長野 みち子 海地獄

(評)湯けむりの伸びてゆく先に「木の実」をつけた枝が差し出ている。やわらかな湯けむりと、熟した木の実の競演。

蒸し風呂の天井低し秋灯  下関市 久芳木陽子 蒸し湯

(評)蒸し風呂の中の濛々たる湯気につつまれて、ぼうっと点る秋の灯。いかにも雰囲気がよく出た一句。「天井低し」も臨場感がある。

投句総数 282

(総評)自然と人生、季節と生活、これが俳句の源泉です。別府鉄輪温泉にはその俳句の素材があふれています。20世紀は物によって文化が進展してきました。21世紀はその物に心を添えて新しく歩き始めたく思います。俳句もまた心で物を見る時代として新世紀をすすみたいものです。人情あふれる鉄輪湯けむり俳句はそれにぴったりです。
 20世紀のご投句ありがとうございました。21世紀も心温まる句をお寄せ下さい。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成12年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


明易やひとりに一つ露天風呂  千葉市 小林 共代 瓢箪温泉

(評)いかにも湯の町のホテル・旅館のめぐまれた温泉の場面の一句である。「ひとりに一つ」とは心から安らいだつぶやきである。

つゆぐもり卵のような湯のにおい  別府市 安部  仁 海地獄

(評)鉄輪や明礬を歩いていると、流れくる湯けむりに混じって、茹で卵の匂いが漂っている。それをずばりと童心が捉えた一句。「つゆぐもり」が雰囲気と気分を強めている。

湯のけむり天まで届く炎暑かな  大分県 土屋 辰生 地獄原湯

(評)「炎暑」の本質がここには見えている。夏の燃えるような暑さを包んで湯けむりが空へ伸び上がる。天と地がまるごと酷暑の中にあるのである。十七字世界はそれをも飲み込んでいる。

投句総数 433、投句者 176

(総評)「鉄輪俳句・湯けむり散歩」がどんどんその面白さをひろめています。その一つが年齢層です。幼稚園生・小学生は平成生まれです。そして、上は米寿の明治生まれの人たちの投句もあるのです。明治・大正・昭和・平成の四世代の詩の広場というわけです。
 その二つ目は、日本全国の人たちの作品が集まっているということです。別府鉄輪の温泉が全国の人に親しまれ、その心が俳句を通して詠われているのです。
 立命館アジア太平洋大学や別府大学の留学生による世界の国の人からの俳句作品も、21世紀には定着してくると思われます。
 夢のある十七字の宇宙がここに根を張っているのです。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成12年春 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりと仲むつまじき春の雪  徳島県 中島 房子 みゆき屋

(評)大自然の営みの不思議さ楽しさがここにある。「仲むつまじき」の一語が全てをやさしく包み込んでいる。湯けむりも春の雪も急に親しく思えてくる。

うららかや湯けむりの影ふみてゆく  大分市 藍沢 博子 地獄原湯

(評)春の日の中にたっぷりと浸っている作者。「湯けむりの影ふみてゆく」には、当然作者の影もそこに重なっている。遊びごころが気持ちよくつたわってくる。

鉄輪の外湯めぐりに春の宵  熱海市 後藤 明夫 蒸し湯

(評)作者が温泉郷・熱海の人であることがとても嬉しい。春宵一刻値千金のそのひと時を「鉄輪の外湯めぐり」をして楽しんでいるのである。熱海万歳、別府万歳。そして鉄輪万歳である。

投句総数 550、投句者 205

(総評)今回もとても素敵な句が沢山寄せられた。
 湯けむりの上を流れる天の川 後藤新太郎
 閑話園みどり豊かにお茶を摘む 宗近さかえ
新太郎君は11歳。さかえさんは98歳。鉄輪に親しむ人がこんなに幅広く、そして俳句を通して一緒に場面をつくってくれたのです。
 人と人、人と自然、、、その結びつけを鉄輪愛酎会のみなさんがしてくださっているのです。今回も入選者は全国にわたっています。本当に嬉しい限りです。

平成11年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成11年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりの空に放ちし草矢かな  別府市 井村 節子 

(評)ゆけむりが清らかな五月の空へと伸びている。その明るい五月晴れの中へ緑の草矢が美しく飛んでゆく。

湯のけむり入道雲とおともだち  福岡県 亀石 昴典 

(評)昴典くんは10歳。むくむくと湧き出てきた「入道雲」。白くやわらかく空へ噴きあがる「湯けむり」。夏の日の力強さと明るさが10歳の瞳に映し出されている。

みちのくの暑さのがれて来し湯かな  山形市 鈴木 美枝子 

(評)「みちのく」の山形に住む作者。九州の夏も暑いが東北の夏も極めて暑い。その現実はともかく、北から南への避暑の旅をするというところに俳諧味がある。しかも、その旅先が別府鉄輪であったことが嬉しい。

投句総数 462、投句者 195

(総評)俳句の本質の一つに挨拶があります。例えば旅をすれば、その旅先の町への挨拶。「美しい町ですね。ゆけむりが五月晴れの空によく似合います」など。挨拶は人と人の心をかよわせ、和の世界をつくります。そして、日本人は特に「季節の挨拶」を重んじます。「暑中お見舞い申し上げます」など。季節のことばを用いて挨拶するのが俳句です。今回は素敵な挨拶句が沢山ありました。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成11年春 優秀三句

倉田 紘文 選


夫に背を流してもらい梅月夜  田川郡 吉積 香代 

(評)湯島の白梅のドラマを再現したような艶のある秀句。「梅月夜」格調を高めている。

末黒野に遊ぶ湯煙ありにけり  大阪府 中山 チエ 

(評)「末黒野」とは野焼きあとの灰で黒くなった野原。その末黒野にも湯煙が噴いているのである。流石に別府。

好きなだけ湯けむり噴かせ春うらら  別府市 甲斐 梶朗 

(評)春風駘蕩の気分が一句をつつんでいる。「好きなだけ湯けむり噴かせ」には悠々たる大自然の心に叶う措辞。

投句総数 494、投句者 216

(総評)12歳の加藤恵さん(名古屋)の「初春のけむりの如く消ゆる恋」をはじめとして97歳の宗近さかさんの「みどり濃き里に声上げ選挙カー」の句まで、年代を超えての俳句作品がまっています。別府・鉄輪温泉のもつ自然のやさしさと厳しさが秀句を授けてくれています。今回も立派な作品が沢山ありました。

平成10年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成10年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


湯の宿の女将が迎ふ冬の客  徳島県 山田 治雄 

(評)いかにも親しげな場面。「冬の客」を迎える「女将」の人情の温かさがよく描かれている。

ゆけむりの小春の空へ消えにけり  大分市 村山 三郎 

(評)ゆけむりの白さと、小春の碧さが美しく溶けあっている。自然の壮大なドラマを見る思いがする。

ゆけむりに見え隠れする冬の月  東京都 鈴木 繁治 

(評)寂びさびとした詩情。「雲に隠れる」のではなく、白いゆけむりに隠れるというところが、湯の町の独壇場である。

投句総数 413、投句者 149

(総評)平成11年(西暦1999年)。いよいよ新しい世紀を目の前にして、自然も人間もしっかりと現実を見つめなおさなければいけません。その「眼力」は俳句創作ともどこか重なるような気がします。「湯けむり散歩」の俳句もそれに寄与することが出来れば幸いです。自然に親しみ、人の心を大切にした素敵な句が今回もたくさん寄せられました。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成10年夏 優秀三句

倉田 紘文 選


帯緩め風を呼び込む宿浴衣  大阪府 田中 皓明 

(評)心身ともにくつろいだ涼しさ。「風を呼び込む」の表現が一気に涼気を身辺にふりまいている。

湯けむりの炎昼やすむこともなく  別府市 中西 一舟 

(評)大自然の営みの悠久さがここにはある。「炎昼」も噴きつづけるゆけむりの力は 全くの人の手の及ばないところのものである。

星涼し句碑ひろいつついでゆ坂  北九州 中村 ふき 

(評)夜の鉄輪の旅情が「星涼し」に象徴されている。「湯けむり散歩」の句碑も人の心を涼しくしてくれている。

投句総数 389、投句者 148

(総評)今回もまた素敵な句が揃っていました。夏の鉄輪の趣きが、一句一句に親しく語られています。湯けむりが気分をほぐし、句心を誘うのでしょう。「俳句は挨拶」です。鉄輪に親しく目と心が注がれた句が多くなりました。嬉しいかぎりです。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成10年春 優秀三句

倉田 紘文 選


花冷の山ふところの海地獄  春日井市 佐藤 幸枝 

(評)桜の花の咲く頃の寒さを「花冷」と言います。「海地獄」の青い色とその冷えの感触がよく合います。身の引き締まる思いが伝わって来ます。

二代目の役者来てゐる春の雪  大分市 佐藤 都 

(評)温泉町の劇場で芝居を演ずる役者さん。「二代目」というところ、古い馴染みの一座の主役の役者さんが思われる。「春の雪」が舞台を想わせるように美しく降っている。

春雨に心はなやぐ露天風呂  神戸市 大園 盛通 

(評)流石に俳人の思いのこもった一句。「春雨」を身と心で楽しんでいるのである。

投句総数 687、投句者 289

(総評)投句量も句の質も一段とよくなったようです。俳句を通して鉄輪の土地と人情がよく詠われています。春の鉄輪の情緒が、優秀句にはそれぞれ捉えられていました。

平成9年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成9年冬 優秀三句

倉田 紘文 選


湯けむりの中にも星と冬の月  福井市 川崎 信夫 

(評)やわらかくて美しいロマンを感じる素敵な一句。ゆけむりにうすうすと透けて見える星と月。夢を見ているような汚れのない世界。

露天湯の人見おろして冬椿  徳島県 中島 房子 

(評)一幅の絵になる構図。「人」は女の人が似合う。ほんのりと肌を染めた美人を、椿の赤い瞳が見つめている。情緒あり。

湯の中でザボンが私待っている  福岡市 宮崎 彩子 

(評)ザボン湯の趣きがやさしく詠われている「ザボンが私待っている」にはほほえみ誘われる。健康的な一句。作者は17才。

投句総数 507、投句者 223

(総評)温泉は一年中、いつでも楽しめます。冬には冬の情緒があります。「冬の月」「冬椿」、、など、取り合わせが清潔です。俳句もまた一年中、いつの季節でも楽しく詠えます。日本の国の四季は有り難いですね。そして、俳句もまた身近に詠めて有り難いですね。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成9年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


涼新たなりふる里の湯のけむり  小郡市 荒金 久平 

(評)久しぶりに帰郷した作者。初秋の空に白く伸ぶ湯けむりが新涼の清々しさで迎えてくれたのである。

ゆけむりの丘に来ている秋の風  別府市 井村 節子 

(評)映画の名場面、それもラスト・シーンのような憂愁の気分が描かれている。別府鉄輪の秋の詩情が美しく描きだされている。

海地獄みあげた空に鰯雲  札幌市 岩間 陽子 

(評)「海」と「空」と「雲」。ひろびろとした秋の空間が見事に詠われている。札幌に住む作者の旅情や旅愁も思われる。

投句総数 504、投句者 243

(総評)俳句は季節の詩です。季節を通して人間の心を詠う詩です。湯けむりにもまた四季折々の詩情があります。今回は秋、さてこの度の「鉄輪」がどのように人々の心を捉えたか?そのようなことを思いながら選をしました。土地の人、旅の人のご健吟をご鑑賞下さい。

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成9年春 優秀三句

倉田 紘文 選


春の夜の女に長き宿浴衣  枚方市 樋口 峰人 

(評)いかにも春の夜らしい艶っぽさがある一句。春の湯宿の気分があまくやわらかく感じられる。旅愁もどこかある。

湯けむりの高さ並びし春日かな  別府市 中西 一舟 

(評)春日遅々という言葉がある。明るく長閑な鉄輪の春の空がここには美しく描かれている。

湯けむりに桜前線上陸す  岡山市 佐藤 君代 

(評)湯けむりの立つ別府にいよいよ桜の花が咲き始めた。「桜前線上陸す」には別府湾の美しい景色も一緒に想い浮かぶ。春本番の別府。

投句総数 634、投句者 256

(総評)これまでで一番多い投句数でした。韓国の人も俳句に挑戦して下さり、国際色も出てきました。素敵な句が多く、優秀句三句を選ぶのがとても大変でした。次の夏の句が今から楽しく待たれます。

平成8年

「鉄輪俳句筒 湯けむり散歩」平成8年秋 優秀三句

倉田 紘文 選


ゆけむりの気ままに天の高かりし  大分市 有永 節子 

(評)秋晴の空のおおらかさがゆったりと描かれている。秋麗の一句。

湯けむりに銀の糸引く秋しぐれ  福山市 井上 蒼月 

(評)はらはらと降ってくる秋しぐれ。湯けむりとの美しき競演。

湯煙に酔たる芙蓉かもしれず  八女郡 加藤 朝子 

(評)「酔芙蓉」という美しい花がある。朝は真っ白に咲き、昼はほのぼのとピンク色になり、夕暮れには濃い紅となる。その様子を詠んだ句。

 投句総数 347

(総評)今回は4才の女の子、小学生、中学生など、若い人からの応募も多かった。最高齢者は88才(米寿)の人。俳句の世界のひろがりと、ゆけむり散歩の親しみが合体してきた。嬉しい限りである。佳句も又多くなっている。



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